奇跡の糖が人類を救う、「希少糖」とは?

 

 

 

希少糖とは

 

糖質について

 

 

1.糖の分類

糖質の最小単位は「単糖」といい、主要なものとしては、ブドウ糖や果糖があります。単糖が二個つながったのが「二糖」で、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖などがよく知られています。単糖と二糖をまとめて「糖類」と呼ぶことがあります。

自然界において、ブドウ糖は、果物や植物の根、コーンシロップなどに、果糖は果物や蜂蜜に含まれています。砂糖は、果物や野菜、蜂蜜に含まれ、乳糖は牛乳や人乳を問わず哺乳類の乳汁に含まれます。また、麦芽糖は穀類が発芽する時に「でんぷん」が分解されて作られます。

単糖が3個から10個ぐらいつながったのが「オリゴ糖」です。単糖の数が10個以上になると「多糖」と呼びます。多糖にはエネルギーを貯蔵する役割もあり、穀類やイモ類等に含まれているでんぷん、動物の筋肉や肝臓などに存在するグリコーゲンがあります。

構造の一部がアルコール類特有のかたちをしている「糖アルコール」も糖質の一種です。糖アルコールは、果物や野菜、海藻、キノコ、そしてワインや日本酒、醤油などの発酵食品にも含まれます。

 

2.糖の働きについて

動いているとき、考えているとき、そして寝ているときも、生きている限り、からだは常にエネルギーを消費し続けています。このエネルギー源になるのが、まず糖質です。

二糖類以上の糖質の多くは消化器官で分解されてぶどう糖に変わり、全身の細胞で使われます。もちろん、脂質も、そしてたんぱく質もエネルギー源として使われます。しかし真っ先に使われるのが「ブドウ糖」です。

 ブドウ糖は、生命維持に欠かせません。脳は、エネルギー源の多くをブドウ糖に頼っていますし、全身の細胞に酸素を届ける血液中の赤血球は、ブドウ糖しか利用できません。

消化吸収されたブドウ糖は肝臓に入り、一部は、「グリコーゲン」と呼ぶ、ブドウ糖がいくつもつながった形となり、蓄えられます。肝臓を通過したブドウ糖は全身に運ばれて使われますが、筋肉でもグリコーゲンに変わります。肝臓には約100g、筋肉には約400gのグリコーゲンを蓄えておくことができます。

それでも余った分は、脂肪細胞や肝臓で中性脂肪として蓄えられます。脂肪細胞への貯蔵量には、基本的に上限がありません。だから食べ過ぎてしまうと、太ってしまうことになります。このような、「ブドウ糖をグリコーゲンとして蓄えよ!」「グリコーゲンをブドウ糖に戻して各細胞へ補給せよ」という指令は「インスリン」というホルモンが出しています。

 

 

希少糖とは

 

1.希少糖の定義

希少糖(rare sugar)とは、国際希少糖学会によって「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」と定義され、自然界に豊富に存在するD-グルコースやD-マンノースなどを除いた単糖の大部分を占めています。単糖は自然界に60種類ほど存在し、D-グルコース(ブドウ糖)やD-フラクトース(果糖)をはじめとした7種類で量的に大半を占めており、残りの50種類余の単糖および糖アルコールは自然界にほんのわずかにしか存在しないため希少糖と称されます。

 

2.代表的な希少糖

L-グルコース

 最も一般的な単糖であるD-グルコース(ブドウ糖)の鏡像異性体(注1参照)です。自然界において高等生物には見出されていませんが、科学的に合成できます。甘味を示すにもかかわらず、生物のエネルギー源とはならないため、低カロリー甘味料としての利用が提唱されています。

D-アロース

  希少糖の中では、D-プシコースと並び、最も研究がなされています。抗酸化作用を示し、虚血による神経細胞死の保護作用や、癌細胞増殖抑制作用などを示すことが明らかにされています。

D-タガトース

 砂糖と同じような風味で砂糖の92%の甘味をもちますが、38%のカロリーしか持たず、血糖の上昇や虫歯の原因とならないことから、甘味料として用いられています。2001年にFAO,WHOから安全宣言が出され、2003年には日本でも食品添加物として認められました。

D-プシコース

 ショ糖(砂糖の主成分)のわずか10%のカロリーしかエネルギーとして利用されないという特徴を持ちます。D-タガトース 3-エピメラーゼ(DTE)という酵素(微生物)により、フルクトース(果糖)から大量に生産され、様々な希少糖生産の出発物質となっています。インスリン分泌作用、動脈硬化防止作用、食後の血糖値上昇を緩やかにする、内臓脂肪の蓄積を抑える、といった研究結果が報告されています。

キシリトール

 冷涼感があり、ショ糖(砂糖の主成分)と同程度の甘味を持ちながら、カロリーは4割程度低く、過熱による変化もないため加工にも適しています。口腔内の細菌による酸の生産もないことから、非う蝕性甘味料として知られキシリトール配合ガムが市場に出回っていますが、それによって「う蝕」が治ることはないとされています。現状では、「非う蝕性ではあるが、抗う蝕性であるとは言えない。」とされています。

D-リボース

 リボ核酸(RNA)(注2参照)の構成糖として知られています。またリボースは、糖分、次に脂肪を分解して生じる体内のエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)の構成成分です。そして、疲労時や運動時などにエネルギーが必要な時には、ATP(アデノシン三リン酸)が分解されることでエネルギーを生産します。国内では、サプリメントやスポーツドリンク、医薬用品として使われています。

注1)鏡像異性体 

ある特定の分子構造に対し、鏡像関係にあり、等価でない(重なり合わない)分子について比較表現として用いられる用語。

注2)リボ核酸(RNA) 

DNAとRNAは共に核酸であるが、DNAは主に核の中で情報の蓄積・保存、RNAはその情報の一時的な処理を担い、DNAと比べて必要に応じて、合成・分解される頻度が顕著で「RNA はDNAに比べて不安定である」と言われる。

 

希少糖の研究による大量生産とその応用

 

1.希少糖を大量生産できる新酵素の発見

香川大学農学部では、1970年代より何森 健(いずもり けん)教官を中心として、単糖類の異性化反応、エピ化反応、酸化還元反応などに関する研究を続け、微生物等から数多くの新規酵素を分離してその性質を明らかにしてきました。

希少糖の体系的な生産方法の研究は、何森 健 教授が、1991年に農学部のキャンパスから偶然に見つけた、微生物が作る酵素の発見に始まります。

その後研究が進み1994年に何森 健 教授らにより「自然界に多く存在するD-フラクトース(果糖)をエピ化してD-プシコースという希少糖を生産することができる。」ことが判明し、希少糖の大量生産が可能となりました。

 

2.医学部における研究の開始

香川大学医学部(旧香川医科大学)においても希少糖のもつ生理活性を探求する研究が、1999年頃から開始されました。

その後、香川大学農学部と香川医科大学がドッキングした形での研究が進められ、以下のような希少糖に関する研究センターが設置されました。そして、医学部の徳田雅明(とくだ まさあき)教授を中心とした実証研究で、希少糖は、ブドウ糖など自然界に多く存在する糖では見られなかった生理活性を持つことを発見し証明することができました。こうした研究は、香川大学を中心にした産学官連携事業として、現在も継続して行われています。

 

希少糖のはたらき

 

香川大学を中心に多面的な研究がおこなわれる中で、D-プシコースやD-アロースなどに有益な生理活性があることが分かってきましたそうした研究報告の中から、主だった内容について紹介します。

 

1.D-プシコースの働き 

ⅰ)食後血糖値の上昇を抑える

 D-プシコースには、食後血糖値の上昇を抑える作用があるという研究報告が数多くあり

 ます。

血糖値の上昇抑制のメカニズム

通常、食事で摂取した糖は腸内にある酵素などによって分解されブドウ糖となり、その多くは、栄養分として血液中に取り込まれますが、余ると脂肪として体内に蓄積されます。ところが希少糖(D-プシコース)を一緒に摂取すると酵素の働きを弱めブドウ糖として吸収できる量が減るため、結果として脂肪の蓄積が抑えられることになります。

 

ⅱ)内臓脂肪の蓄積を抑える

上記ⅰ)の内容は同じ食事であればカロリー摂取を抑制し内臓脂肪の蓄積を抑えることを意味します。さらに体重の増加を抑える作用についても、多くの研究が報告されています。

<内臓脂肪について>

肥満には、内臓のまわりに脂肪が多くたまる内臓脂肪型と、皮下脂肪が多く内臓のまわりにあまり脂肪がつかない皮下脂肪型の二つのタイプがあります。特に内臓脂肪型肥満は、糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症等の生活習慣病を合併して動脈硬化を起こしやすくなるので、注意が必要です。

内臓脂肪が貯まっている人は生活習慣病を同時にいくつも合併しやすい特徴があり、病気の一つ一つはそれほど重症でなくとも、いくつも重なって起こると動脈硬化が進みやすくなります。

 

ⅲ)動脈硬化の抑制

動脈硬化とは血管が硬くもろくなる病気です。動脈硬化の開始因子のひとつにMCP-1というのがありますが、これは、血管内皮細胞から分泌されてきます。希少糖(D-プシコース)は、この分泌を抑制するはたらきのあることが判明されています。また、MCP-1は動脈硬化の初期において、局所マクロファージや白血球を呼び寄せ、それらが核となって動脈硬化が始まるとされていますが、これも希少糖(D-プシコース)により抑制されることが報告されています。

 

ⅳ)抗う蝕性

「う蝕」とは、口腔内細菌が糖、特にショ糖を栄養源として酸を発生し、この酸によって歯のエナメル質や象牙質から無機成分のリン酸やカルシュウムが溶け出していく疾患のことで、う蝕発生誘発菌による酸の産生や歯垢の形成を防止することが必要となります。キシリトールやエリスリトールなどの希少糖は、これらを防止する非う蝕性のはたらきがありますが、D-プシコースなど幾つかの希少糖にも同じように抗う蝕性効果があることが報告されています。

 

ⅴ)寿命延長作用

D-フルクトースの異性体である希少糖の一種D-プシコースについて、線虫を使って研究を進めた結果、D-プシコースには優れた寿命延長効果があることが報告されています。D-プシコースは老化の原因である活性酸素障害(核酸、たんぱく質および脂質といった生体機能分子を傷つける作用)を抑えて寿命を延長させる作用があると考えられています。

 

 

2.D-アロースの働き

D-アロースは、D-プシコースからアルドース・イソメラーゼという酵素の反応によって作られる希少糖です。現在精力的に研究が続けられている希少糖の一つです。既に、細胞活性酸素抑制作用、収縮期血圧・拡張期血圧の上昇抑制、臓器虚血障害保護作用、破骨細胞分化抑制、癌細胞増殖抑制のはたらきがあることが報告されています。また、寿命延長作用についても報告されています。

 

ⅰ)抗酸化作用

活性酸素の働きとしては、外部から入り込んできた異物(微生物)を排除する機能があげられます。白血球などが体内の異物や毒物を認識し、これらを取り込んで分解することは知られていますが、この時に細菌などを分解するのに活性酸素が働いています。

活性酸素にはいくつもの種類があり、上記のように体によいものばかりではなく有害なものもあることが分かってきました。特に活性酸素フリーラジカルは様々な物質に対し非特異的な化学反応をもたらし、細胞に損傷を与えるためその有害性が指摘されています。それを防ぐため細胞の各組織には抗酸化酵素と呼ばれる、活性酸素フリーラジカルを消去する酵素が存在しています。また、細胞内の酵素で分解しきれない余分な活性酸素は、自分の体を傷つけてしまったり、体を酸化させてしまうことも分かってきて、癌や生活習慣病、老化等さまざまな病気の原因となると言われています。酸化とは鉄が錆びるのと同じで体を錆びさせていくのです。

希少糖D-アロースには活性酸素による細胞障害を抑制する機能があります。例えば、活性酸素を作る白血球などの細胞に添加すると、この産生を抑制し、ひとたび産生された活性酸素に対しては、これを消去する機能が確認されました。

 

ⅱ)虚血障害保護作用

虚血・再灌流障害は、脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる血栓によって長時間血流が阻害(虚血状態)されることで周辺細胞が壊死した時、血流が再開されても壊死した部分で活性酸素などの有害物質が発生し、細胞を傷つけるために起こる障害をいいます。

虚血・再灌流障害は、脳梗塞や心筋梗塞、腸間膜血管閉塞症などに対する治療や臓器移植後に多くみられます。また、局所的にだけ起こるのではなく、二次的に脳や肺、肝臓や腎臓など全身の臓器で障害を起こし多臓器不全になる場合もあります。

また、災害などで瓦礫に圧迫され虚血状態になり、救出され再び血液が流れ出しますが(再灌流)、圧迫部位や時間によっては、活性酸素や毒素が全身を回り、心肺停止にいたる事もあります。

希少糖(D-アロース)を虚血前(血液が遮断又は少なくなった状態の前)に注射することで、神経細胞死を大幅に改善することができ、臓器虚血障害を防ぐ機能を有することが判明されました。これは、D-アロースが活性酸素の発生を抑制し、また弱いながらも活性酸素を消去する力があることによるものです。

 

ⅲ)抗骨粗鬆症

正常な骨形成では、骨の形成と吸収がバランス良く繰り返し、現状を維持しながら新しく生まれ変わり再構築を繰り返しています。しかしながら、このバランスが崩れ、破骨細胞による骨の吸収が、骨の形成よりも過剰に行われると、骨は脆くなり骨粗鬆症へと発展することになります。これを阻止するには、破骨細胞分化を抑制し骨の吸収を弱めることが必要です。

そして、破骨細胞分化を抑制する誘導因子であるTXNIP(チオドレキシンインテラクティングプロテイン)を過剰に発現することが有効な手段の一つですが、希少糖(D-アロース)を添加することによりTXNIPの発現が増加し細胞分化が抑制されることが確認されています。

 

ⅳ)抗癌作用

癌細胞は適切な培養環境で急速に増殖します。希少糖(D-アロース)をこの中に添加すると増殖は止まることが判明しています。但し、全ての癌細胞に効く訳でなく、細胞によって効く場合とそうでない場合があり、抗ガン剤との併用での効果を検討していく必要があるといわれています。

 

ⅴ)寿命延長作用

D-アロースについてもD-プシコースと同様に、寿命延長効果が認められました。寿命研究のモデル生物である若い線虫を使って希少糖を含む培地で培養し、生死を観察して平均寿命を算出した結果、希少糖を含まない培地に比べて寿命が20%伸びたことが明らかになりました。

 

  主な知識取得情報源

  ※かがわ希少糖プロジェクト        http://www.pref.kagawa.lg.jp/kisyoto/

  ※かがわ糖質バイオフォーラム     http://www.kagawa-isf.jp/glycobio/tousa/

    ※一般社団法人希少糖普及協会  http://www.raresugar.org/rare/htm/

    ※厚生労働省

       http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/index.html

  ※希少糖 秘話 何森 健(いずもり けん)著

     

     

希少糖は、以下の団体を中心として、研究開発や知的財産保護、並びに一般消費者への普及啓蒙が図られています。

 

 

【香川大学 希少糖研究センター】

香川大学において生まれた新たなバイオ素材である希少糖を用いて、新たな糖生命科学を創成し発展させることで、国内外における希少糖の学術研究拠点としての役割を果たし、その成果を教育並びに地域の活性化に生かすことを目的として設立。

希少糖の生産方法や微生物・酵素等の研究開発を行う「生産・特性研究部門」、希少糖の各種生物への影響調査や、医薬品・機能性食品・化粧品等の応用開発を行う「用途開発部門」、希少糖研究の産官学連携や地域連携施策等を構築し実践していく「社会連携(貢献)部門」、以上の三つの部門で構成されています。正に、我が国の希少糖研究の中核組織です。

 

【香川大学 社会連携・知的財産センター】

平成12年4月に、地域社会の科学技術の発展と産業の振興に寄与するとともに、大学における教育研究活動にも活力を与え、相互に発展すること目的として、香川大学地域開発共同研究センターが設置されました。また、平成16年4月に大学の有する知的財産を有効に活用して地域社会への貢献を図るための組織として、香川大学知的財産活用本部が設置されました。

そして、平成20年4月にこれらを統合し、知的財産の創出、取得、活用及び管理を戦略的に実施し、産学官連携活動を推進し地域の産業の振興を図ると共に、香川大学の学術研究及び教育の充実に資することを目的として、社会連携・知的財産センターが設置されました。 

 

【一般社団法人希少糖普及協会】

希少糖の利用を普及、発展させることによって、会員の事業発展に資するとともに、希少糖関連技術の進歩および人類の健康と社会の発展に寄与することを目的としています。

代表理事・会長には、元香川大学学長の近藤 浩二(こんどう こうじ)香川大学名誉教授が就任し、理事には、香川大学医学部の徳田 雅明(とくだ まさあき)教授が、顧問には何森 健(いずもり けん)香川大学特任教授・名誉教授が就任されています。

 

平成26年6月1日

 

(注):以上の内容は専門家や研究者ではない幣倶楽部員が最初のホームページ来訪者の一助にと考えて、平成26年6月1日現在知りうる範囲でまとめたものです。使用した用語、表現が正確でない事がありますのであらかじめご承知おき下さい。